2023/05/19
秘密保持義務の例外 ~ 専門職のジレンマ ~ 。私たち専門職は業務を遂行するにあたり、クライエントから知り得た個人情報を守るために、職業倫理として「秘密保持(守秘)義務」が定められています。「法的な秘密」は隠すことに客観的・実質的な利益のある事柄を保護の対象(秘密)とするのに対し、「職業倫理的秘密」は専門職に寄せられる絶対的な信頼をもとにして、専門職が知り得た事柄全てを対象(秘密)とします。ゆえに、これまでは「絶対的秘密保持」の考え方が維持されてきましたが、現在では「条件付き(限定的)秘密保持」の考え方が主流となっています。つまり「秘密保持」には限界があり、命に危険が及ぶ場合等の特定の状況下においては「秘密保持」が解除されるというもので、一般的には「秘密保持義務の例外」と呼ばれています。そして、この「例外」を作るきっかけとなった判決が「タラソフ判決」で、「クライエントがある女性殺害を告白したが、カウンセラー(精神科医)は秘密保持義務を遵守したために殺され、遺族から訴えられて敗訴した」とされているのをよく見かけます。実は、カウンセラーことDr.ムーアは何もしなかったわけではなく、彼の名誉のためにも、記憶をたどった話にはなりますが、もう少し詳細をお伝えしたいと思います。1969年、カリフォルニア大学の学生だったポダーは大学のカウンセリングに通っていた。彼は、カウンセリング中に、留学生のタラソフに振られたことを恨み、彼女が夏季休暇で帰省しているブラジルから戻ったら「殺したい」と話した。Dr.ムーアは、その後の治療を中断して精神神経科次長に相談(Dr.ムーアは大学附属病院に所属)し、キャンパスポリス(大学に駐在している警察)に身柄を拘束させて強制入院をさせようとしたところ、ポダーは冷静に振舞い「彼女には近づかない」と誓った。警察は、ポダーがタラソフに近づかないと約束したことと、彼が落ち着いているように見えたため解放した。この一連の出来事を知った精神神経科部長は「情報不開示の原則」を守るようにいい、ポダーに謝って二度とこのようなことをしないと約束して、記録の破棄と一切の措置をしないことを命じた。その2ヶ月後に悲劇は起きて、タラソフは殺害された。遺族は大学やDr.ムーアを相手に民事訴訟を起こし、Dr.ムーアは「自分は正しかった」と主張するも、「タラソフ本人に警告をしなかった」という点で敗訴し、「犠牲になると思われる者に対して、その危険についての警告を行う」よう「警告義務」が要求された。それから「警告義務」が「保護義務」へと強化されて、自身あるいは他者の生命に明確かつ切迫した危機が存在する状況において、積極的に「保護」することが求められるようになりました。つまり、「危機がある」と判断してからではなく「危機がありそうだ」と思った時点で通報しなければなりません。「保護義務」は一見、命を守るために先手を打つ素晴らしいルールのように思えますが、専門職にとって「秘密保持義務」を解除して通報することは、クライエントとの関係性にかかわるだけでなく、世間的な信用問題にもかかわるのでジレンマに陥ります。「通報されるから行かない」「本当のことは話さない」など、危機を隠蔽されてしまう可能性もありますし、「冤罪」になれば、クライエントやご家族の人生やこころにとても大きな傷を与えることになりますので、その責任と苦悩のストレスは相当なものになります。実際に、虐待の「冤罪」が生まれ、数年苦しんでいるご家族もいます。クライエントとその家族、および関係者を本当の意味で守るためには、思い込みや決めつけで判断せず、しっかりと情報収集し、第三者に相談・連携しながら、慎重かつ適切な対応を行いたいものですね。お問い合わせは、プロフィールにありますホームページの「お問い合わせ」をご利用ください。専門職の皆さまが、それぞれの専門性を十分に発揮できるよう願っています。[ 一般社団法人 目白心理総合研究所]臨床心理士 / 公認心理師 / キャリアコンサルタント / CEAP / EAPコンサルタント / CBT Therapist︎ / CBT Professional(EAP) / CBT Extra Professional ︎目白駅から徒歩2分池袋駅から徒歩10分
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